第2回「スタートアップこそ資本政策を作ろう!」

あなたの会社は「資本政策」を策定していますか?

資本政策とは資金調達と株主構成の計画を示すものであり、特に上場まで視野に入れている場合や外部資本の投資を受けようとする場合には必須と言っても過言ではありません。

今回は、まだ資本政策を作成していない方やこれから作成しようと考えている方に向けて、「資本政策って何?」「どういう風に作成するの?」といった概要説明から、作成の3ステップと作成時の注意点について、全4シリーズでお届けしていきます。

基本的な用語解説からスタートしていますので、前提知識が無い方でも、順に記事を読むことであなたの想いが反映された資本政策が策定できるようになっています。

※将来的にも上場せず自己資本のみで事業を行う方は、ご参考程度に読み流していただいても大丈夫かと思います。

第1回「株式と資金調達の未来マップ:資本政策とは何か?」
第2回「スタートアップこそ資本政策を作ろう!」
第3回「コツを抑えて、らくらく資本政策表作成3ステップ」
第4回「資本政策を作る際おさえておきたい3つのポイント」

スタートアップにおける資本政策の重要性

スタートアップ企業やベンチャー企業にとって、資本政策はどれほど重要な役割を担っているのでしょうか。

資本政策を立てることによるメリット

資本政策を立てるメリットは、エクイティ・ファイナンス後に会社関係者の株式の持分比率を任意の割合に保てる点です。

創業初期のスタートアップやベンチャーの場合、経営者が全ての株式を保有しています。つまり、株式の持分比率が100%の状態です。そこからエクイティによる資金調達を繰り返すことで、経営者の持分比率は低下していきます。

エクイティによる資金調達はデットによるものと違い、返済義務がありません。しかし一方で、議決権も第三者に渡るため、会社経営に携わる人の数が増えていきます。

会社が重要な意思決定をしなければならない局面にあると想定しましょう。経営者の持分比率は16%ほどまで低下しており、経営とは関係のない第三者も同水準の持分比率とします。さらに、その経営者と第三者の意向が異なってしまいました。

こういった状況になってしまうと、会社の意思決定から迅速さが失われてしまいます。最悪の場合、そのアクションの遅さからマーケットの中で埋もれてしまう可能性もあるでしょう。

つまり、第三者に株式が渡る前に持分比率について決定しておかないと、経営における弊害が生じてしまうのです。

資本政策という形で、あらかじめ「誰に」「どれくらい」株式を渡しておくかを決定しておくことで、会社関係者の持分比率が任意の状態に保てます。結果として、エクイティによる資金調達をしたとしても、会社経営における意思決定の速度や自由度、経営の安定性を確保できるのです。

具体性を持った事業計画書が必要

しかし、エクイティによる資金調達ができなければ、資本政策を立てる意味がありません。では、エクイティによる資金調達はどのようにして獲得したら良いのか。

それは、具体性を持った事業計画書を作ることです。

そもそもエクイティでの資金調達先は、VCか事業会社、もしくはCVCでしょう。これらのファンドが「資金提供をしてもいい」と判断できるような会社でなければなりません。そのために必要なのが事業計画書です。

ここでは、事業計画を立てる上で重要な4つの観点を簡単に紹介します。

市場

マーケットでのニーズや、マーケットの規模、成長性などの観点から、自社のサービスやプロダクトを見つめ直してみましょう。もし市場が弱いと感じるのであれば、市場を変更するのも視野に入れておいてください。

戦略

仮に市場選びがうまくいったからといって、何もせずに市場の中で事業が拡大するわけではありません。しっかりと市場の中で事業拡大させるための戦略を描けているのかが重要です。

チーム

会社は人で構成されています。つまり、人がいなければ事業を展開できません。上述した戦略を、徹底できるチームが作れているのかも考えましょう。

技術

大抵の市場には競合他社が存在します。そんな競合と対峙する際に、自社はどのような差別点、優位点を持っているのかを考えましょう。

この4つの観点を持って事業計画書を作成することで、VCや事業会社からの投資も受けやすくなるはずです。資本政策も重要ですが、資金調達をするためにも具体性のある事業計画書を作成しましょう。

各ラウンドでの資金調達

エクイティでの資金調達にフォーカスして説明してきましたが、あくまでもこれは創業初期に関しての内容です。企業が成長し、フェーズが移り変わっていくことで、資金調達方法も多様化します。

第2回の最後は、各ラウンドにおいて資金調達はどのように変動していくのかを解説します。ただし、資金調達ラウンドに明確な分類分けはないため、今回は「シード」「シリーズA」「シリーズB以降」と3段階で解説します。

資金調達ラウンドを説明する際には、「シード」「アーリー」「シリーズA」「シリーズB」「シリーズC」「シリーズ・・・」とさらに分けることもありますが、投資されるごとに次の資金調達ラウンドに移行すると考えていただければ問題ないでしょう。

シードラウンド

シードラウンドは、いくつかある資金調達ラウンドの一番初めの段階を指します。シード(seed)は「種」を意味します。つまりシードラウンドとは、「ビジネスアイデアや創業メンバーは徐々に揃っているが、事業としては動き出していない(芽が出ていない)」状態です。

シードラウンドの資金調達方法は、創業者やその家族、友人の自己資金、公的な助成金などが中心です。この段階では実績がないため、銀行からの融資などは受けられません。

そのため、素早く事業を拡大させるために、VCや事業会社、個人投資家に掛け合ってエクイティによる資金調達を試みます。

シリーズA

シリーズAはシードラウンドで1回目の投資を受け、2回目の投資を受けようとしている資金調達ラウンドです。企業としては、プロダクトやサービスの開発が完了に近づき、徐々にマーケットの開拓を始めているような段階です。

認知度を広げるために広報戦略にも資金を投下しているような状態です。

シリーズAでは、シード同様VCや事業会社からのエクイティ・ファイナンスが主な資金調達方法です。それに加えて銀行からの融資といったデット・ファイナンスも次第に可能になる段階でもあり、資金調達の幅がシードラウンドよりも広がっているのが特徴です。

シリーズB以降

シリーズB以降は、シリーズAから投資を受けた回数によってラウンドが移行していきます。「シリーズAの投資を受けたら次はシリーズB」という形です。

ここまで企業がスケールしてくると、上述してきた資金調達方法の他に、M&Aなども事業拡大の選択肢に含まれてきます。

よりさまざまな形で資金調達が可能になっている状態です。

株式上場

株式上場とは、一般人でも会社の株式を自由に売買できる状態にすることです。IPO(新規公開株)とも言います。

株式を上場することで、株式の流動性は向上し、さらなる株価の上昇を見込めます。IPO前に株式を保有していた人であれば、IPOしたことで大きなキャピタルゲインも見込めます。

IPOやM&Aという形で事業を手放し(EXIT)、対価として大きな収益を獲得するために起業する人も多数います。

まとめ

第2回では、「資本政策がなぜ重要なのか」と「資金調達ラウンド」について解説しました。

資本政策の重要性は、株式の持分比率を任意の割合に保てる点にあり、エクイティ・ファイナンスを実施したのちに会社経営の安定性や、意思決定の自由を損なわないようにすることです。

また、資本政策を立てる前提にはエクイティ・ファイナンス、つまり株式公開による資金調達があります。VCや事業会社から資金調達を成功させるために必要なのが、具体性を持った事業計画書です。事業計画書は「市場」「戦略」「チーム」「技術」の4つの観点から慎重に作成しましょう。

資金調達ラウンドは「シード」「シリーズA」「シリーズB以降」と紹介しました。詳細にラウンドを分類する場合もありますが、まずは企業の成長度合いと資金調達の状況に合わせて資金調達ラウンドが移行することを覚えておきましょう。

また、ラウンドが移行することで資金調達が多様化し、それに伴って経営に参画する人数も増えていきます。その状態になった場合でも、しっかりと会社経営ができるように資本政策は丁寧に、そして慎重に時間をかけて作成する必要があるのです。

では次回は、資本政策表の作成方法を3つのステップで解説いたします。