第4回「資本政策を作る際おさえておきたい3つのポイント」

あなたの会社は「資本政策」を策定していますか?

資本政策とは資金調達と株主構成の計画を示すものであり、特に上場まで視野に入れている場合や外部資本の投資を受けようとする場合には必須と言っても過言ではありません。

今回は、まだ資本政策を作成していない方やこれから作成しようと考えている方に向けて、「資本政策って何?」「どういう風に作成するの?」といった概要説明から、作成の3ステップと作成時の注意点について、全4シリーズでお届けしていきます。

基本的な用語解説からスタートしていますので、前提知識が無い方でも、順に記事を読むことであなたの想いが反映された資本政策が策定できるようになっています。

※将来的にも上場せず自己資本のみで事業を行う方は、ご参考程度に読み流していただいても大丈夫かと思います。

第1回「株式と資金調達の未来マップ:資本政策とは何か?」
第2回「スタートアップこそ資本政策を作ろう!」
第3回「コツを抑えて、らくらく資本政策表作成3ステップ」
第4回「資本政策を作る際おさえておきたい3つのポイント」

事業にいくら調達する必要があるか

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資本政策は、資金調達を行うことが前提にあります。
では、資金調達ラウンドに応じて、いくらくらい調達する必要があるのでしょうか。

シードラウンドの調達目安は500万〜1000万円、シリーズAは数千万円〜2億円、シリーズB以降は数億円、という金額で推移していきます。
あくまでもこれらは目安でしかなく、その企業が必要とする金額に見合った資金調達を行いましょう。

しかし、創業初期で資金調達をしたことがなければ、上記の金額を集めるためには、何が必要なのかわかりません。

綿密な計画と説得力が重要

資金調達をするためには、綿密な事業計画と、投資家(VCや事業会社など)を納得させる説得力が必要です。
そのためには、投資家が何を持って「投資する(資金提供する)」と決めているのかを知っておく必要があります。

事業計画書の作成における留意点は、シリーズ第2回で解説しました。「市場」「戦略」「チーム」「技術」です。

第4回は、投資家がどのような戦略を持って投資しているのかを紹介します。
これを知っておくことで、計画に説得力が増し、資金調達の成功確率を高められるはずです。

投資家は、投資するのに得意とする領域をそれぞれ持っています。
なぜならば、投資先をIPOもしくはM&Aさせる必要があり、株式を持つことで経営に関与する必要が生まれるからです。

そのためにも、投資家は自分(自社)の専門領域に投資しなければなりません。
またこの領域は、企業が属する業界に限らず、企業の資金調達ラウンドにも同様のことが言えます。

つまり投資家は「医療業界のシードラウンドにいるスタートアップ企業」という特化をしているのです。
よって、事業計画書を綿密に作成したり、4つの観点から説得することも重要ですが、自社に合っている投資家を選ぶことも成功の秘訣と言えます。

失敗例

初めての資金調達は、慣れないこともあり、準備に時間がかかってしまいます。
また、資本政策も慎重に行わなければならず、実施の調達まで長時間を要すことも多々あります。

しかし、創業初期に時間をかけるべきはプロダクトやサービスの開発であり、資本政策の細かい部分に時間を取られすぎてはいけません。
まず少額の資金調達を行うのであれば、ここまでの記事で紹介した資本政策の作成方法で、シンプルに完結させ、素早く完了できるようにしましょう。

経営において重要なことは、資金調達をするために資本政策を立てることではありません。

目的を見失ってしまうケースが多々あるため、資本政策を立てることも手段であることは頭に入れておきましょう。

持分比率の推移

資本政策は、エクイティ・ファイナンスを実施した後に、創業者の持分比率を守るために策定します。
そのため、エクイティ・ファイナンスによって持分比率はどのように推移していくのかを把握しておくことも、資本政策を作る上で重要です。

創業者の持分比率は資金調達ごとに低下する

創業者の持分比率は、資金調達を重ねるごとに低下していきます。
なぜならば、経営者が保有している株式を第三者に渡していくからです。
シリーズ第3回で紹介した「第三者割当増資」がまさにこれに当てはまります。

エンジェル投資家に振り分けすぎると危ない

持分比率が低下しすぎている状態、つまり投資家に株式が多く渡りすぎてしまっている状態はデメリットを孕んでいます。

それは、会社経営の自由度と安定性の欠如、迅速な意思決定が行えなくなることです。
これは株式が議決権を保有しているためです。持分比率が低下するほど、議決権が創業者の元から離れていきます。
これが5割以下になってしまうと、自分の意思が介入せずに意思決定が行われるケースも存在します。

つまり、事業を拡大するために資金調達は避けられませんが、資金調達を繰り返すことによって、会社の経営が思うように行かなくなる場合もあるということを覚えておきましょう。

だからこそ、資本政策という形であらかじめ対処しておく必要があるのです。

失敗例

企業価値が見えにくい創業初期。
しかし、資金調達をしないわけには、企業が成長するか否かがわかりません。
そのため株価が低い状態で、資本政策を立てずに資金調達をしてしまう企業が後を断ちません。

結果として、創業者の持分比率が著しく低下し、会社経営における影響力を失ってしまいます。
中には、創業社長にもかかわらず、取締役を解任されるケースもあります。

人間同士のやりとりのため、どのような関係性を持っていたとしても、少なからず衝突は起きます。
このケースのように、法律によって自分の立場が追いやられてしまっては元も子もありません。

そのため、あらかじめ資本政策を作成し、持分比率がどのように推移するのか、またどこまでの低下を許容するのかを決定しておきましょう。

各資金調達時の株価算定について

投資家において株価は、投資するか否かを決定するための大きな指標です。
第3回でも少し触れましたが、そもそも株価はどのようにして決定するのでしょうか。

上場前の株価の算定方法

上場前の株価は、自分で算定しなければなりません。
なぜならば、証券市場で取引されておらず、客観的な数値が自動で出ないからです。
逆を言えば、上場していれば、証券市場で取引されている価格が株価となり、わざわざ算出する必要はありません。

ではどのようにして株価を算出したらよいのか。ここでは代表的な3つをご紹介します。

純資産方式

純資産方式は、純資産額(資産額ー負債額)から株価を算出します。

『株価=発行済み株式総数/純資産額』

この方式は、純粋に今の企業の資産から価値を判断するというものです。
会社の成長率などは全く考慮されていないことに加えて、負債の方が資産より多い企業は、株価を算出できません。

DCF方式

DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)方式は、将来生み出すキャッシュフローの予測から株価を算出します。

『株価=フリーキャッシュフロー/WACC』

フリーキャッシュフローとは、会社が自由に使えるお金のこと、WACCは会社が資金調達をする際にかかるコストのことをさします。
つまり、DCF方式は今後使えるお金を、資本コストで割り引くことで、キャッシュフローを現在の価値に変えているということです。

なお、それぞれの数値は、以下の式で求められます。

フリーキャッシュフロー=営業キャッシュフローー投資キャッシュフロー

WACC(%)=株主資本コスト × 株主資本/(有利子負債 + 株主資本) + 負債コスト × (1-実効税率) × 有利子負債/(有利子負債 + 株主資本)

事業計画は未来のことを示すものであり、それに未来のデータから算出した株価を利用することは妥当でしょう。
そのため、DCF方式を採用する企業は多くあります。

類似業種比準方式

類似業種比準方式は、その名前の通り類似している上場企業(業種や規模など)の利益や純資産を参考にしながら株価を算出する方法です。

この方式は主に相続税を軽減するために用いられる株価の算出方法です。
加えて、その算出方法は少し複雑なため、ここでは計算方法を省略いたします。

適正価格の重要性

株価にはさまざまな算出方法があり、いずれの方法を選択して株価を決定しても構いません。
しかし、株価を適正な価格にしておかなければ、資金調達において不利益を被りかねません。

例えば、株価が低すぎた場合。これはこのシリーズで何度もお伝えしている通り、創業者の持分比率に大きな影響を与えます。
つまり、投資家の持分比率が高まってしまうということです。

この事態は会社経営の不自由さなどを引き起こすのに加えて、第3回でお伝えしたように、他の投資家の参入障壁を高めてしまいます。
そのため、創業初期に株価は下げすぎないようにしましょう。

一方で、高く設定しすぎた場合も、資金調達にネガティブな影響を引き起こします。
創業当初は会社経営の見通しも良く、株価を高めに設定していたとします。

しかし、当初の計画通りに事業が進まず、株価を高く維持できなかったとしたら。次の資金調達を行うタイミングでは株価を下げなければなりません(ダウンラウンド)。
その株価の低下による矛先は、最初の資金調達先に向きます。

ダウンラウンドは投資家の信用も失いかねないため、本来は行いたくないものです。

だからこそ、適切な株価を設定しておくことが重要とされているのです。

失敗例

上述した適切な株価の重要性は、実際の事例としてもよく確認されます。

追加の資金調達を実施する際に、適切な株価よりも高く設定したが、投資先が集まらなかった。
そのため、株価を下げる形を検討するも、もともとの投資家から反対を受け、ダウンラウンドも実施できなかったというものです。

一度投資を受けてしまえば、創業者だけの会社ではなくなってしまいます。
ステークホルダーと意向が衝突しないように、なるべく双方が納得できる状態にしておきたいですね。

まとめ

第4回は、「資本政策を立てる上で押さえておきたいポイント」について解説しました。

1つ目のポイントである「資金調達額について」は、資金調達ラウンドに応じていくらの資金調達をするのが相場なのかを解説しました。

また、資金調達を成功させるためには、綿密な事業計画と説得力を持ち、「投資家がどのような戦略で投資をしているのか」を把握することが重要です。

2つ目のポイントである「持分比率の推移」は、全4シリーズを通してお伝えしてきた内容です。

資本政策は持分比率を安定させ、会社経営の自由度や安定性、意思決定の迅速性を担保するために立てることも覚えておきましょう。

そして3つ目のポイントである「株価の算出」は、3種類の株価の算出方法と、適切な株価を設定する重要性を解説しました。

株価は高く設定しても、低く設定しても自社にネガティブな影響があります。
専門家の知識を借りながら、最適な株価に設定することを心がけましょう。

この第4回で、資本政策に関するシリーズを終了します。資本政策に関して、知識は深まったでしょうか。
これから起業を目指す人も、すでに起業して資金調達が目前の人も、もしかしたら投資家としてこれを読んでいる人もいるかもしれません。

いずれにせよ、資金調達をする中で資本政策を立てない理由はありません。
おそらくここまで読んでくださった皆さんであればお分かりいただけたかと思います。
しっかりと資本政策を策定し、ステークホルダーや有識者に見てもらいながら、慎重に制作していきましょう。