個人?法人?それとも?起業前に知っておくべき3つの方法と手続きを優しく解説
起業したいと思っているけれど、手続きが大変そうだと考えていませんか。
もちろん、起業するなら手続きは、自分で行わなければなりません。一方で、個人と法人、どちらで起業するかによって、手続きや費用は大きく異なります。
そこで、それぞれの手続きの大変さや費用を、自分の事業計画に照らして、個人事業主か、あるいは法人を設立して起業するかを、判断する必要があります。
本記事では、個人事業主または法人設立による、起業時に必要な基本的手続きについて解説しています。また、「合同会社」の設立による起業も、手続きや費用面からメリットが大きいため、ぜひ参考にしてください。
目次
個人事業主の起業手続き
よくある起業は、最初は自分一人のスキルを頼りに、ビジネスを立ち上げるケースです。この場合、個人事業主としてスタートすることを考えればよいでしょう。
なぜなら、起業時の手続きもその後の運営も、必要とされる手間やコストが圧倒的に少ないからです。
「個人事業の開業・廃業等届出書」は必須
まず、個人事業主としての起業に最低限必要な書類は、「個人事業の開業・廃業等届出書」のみです。事業を開始した日から、1ヵ月以内に提出する必要があります。
届出書は、国税庁のホームページからダウンロードでき、郵送による提出も可能です。
記入する項目は、氏名や生年月日に加え納税地や所得の種類など、起業を決めたのであればあまり考えずに書けるものばかりです。
「青色申告承認申請書」で65万円の税額控除
必須ではありませんが、「青色申告承認申請書」も、「個人事業の開業・廃業等届出書」と同時に提出する人が多いです。
なぜなら、「青色申告承認申請書」を提出し、複式簿記によって記録し算出した納税額を確定申告すると、最大で65万円の税額控除が受けられるからです。これを、「青色申告特別控除」と呼びます。
その上で、家族が従業員となる場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」も税務署に提出します。
近年は、簿記に詳しくなくても複式簿記による収支の記録ができる、クラウド会計ソフトが利用する人が多いです。年間1万円ほどから利用できます。簿記に自信がなければ、利用するとよいでしょう。
個人事業主の起業にかかる費用
「個人事業の開業・廃業等届出書」や「青色申告承認申請書」は、自分一人で簡単に書けるものです。提出のために印紙を貼ったりする必要もないので、手続きにかかる費用は基本的にありません。
個人事業主からの法人設立
ビジネスが順調に成長し売上も増えてくると、個人事業主のままでは不都合になってきます。
それは、納税額の事情によります。個人事業主の場合、事業所得(利益)のすべてが個人所得になり、所得税が課されます。しかし、この所得税額が一定の金額を超えてしまうと、法人を設立した方が、収める税額が少なくて済むようになってしまうのです。
一般的には、事業所得が500万から600万くらいになった時が、法人化を検討するタイミングだと言われています。
※開業届のメリットデメリットをより詳しく学びたいかたは下記の記事をチェック
法人設立の起業手続き
手続きの煩雑さやコストからして、個人事業主で起業することは、難しくありません。
しかし、最初から法人を設立して、起業する方法もあります。ある事業から分離独立して多数の顧客も引き継ぐ場合や、最初から大きな事業を見込んでいる場合などに多いでしょう。
また、対外的な信頼度の高さを活かしたり、将来の成長を見込んだうえで、法人を設立して起業する人もいます。
以下で解説する手続きと費用は、一般的なビジネスで圧倒的に多い、「株式会社」形態の法人設立にあたってのものです。しかし、他の法人形態でも必要とされる手続きは、基本的に同じです。費用や要件が若干異なる場合はあります。
定款の作成・認証
法人(株式会社)を設立する時には、基本的な規則・原則を定める必要があります。
これを書面にまとめたものが「定款」で、作成したら、本店所在地を管轄する法務局、または地方法務局の所属する公証役場の認証を受けます。
認証を受けるには、次の「絶対的記載事項」は必ず記載しなければなりません。
・事業目的
・商号
・本店所在地
・設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
・発起人の氏名又は名称及び住所
・発行可能株式総数
なお、定款は紙による書面ではなく、PDF形式のデータファイルで認証を行ってもらうこともできます。また、このPDF形式での定款を、電子定款と言います。
電子定款であれば、書面による認証では必要な収入印紙代4万円が、必要なくなります。
法務局での登記
定款の認証が済み、出資金の払い込みや印章の作成など事業をスタートする準備が整ったら、法務局に法人(株式会社)の設立登記を申請します。
申請には、少なくとも次の書類は必要とされます。ただし、定款の記載内容などにより増えるのが通例ですので、申請前に法務局の登記相談窓口や司法書士に相談するとよいでしょう。
・株式会社設立登記申請書
・登録免許税の収入印紙貼付台紙
・定款
・設立時取締役の就任承諾書
・取締役の印鑑証明書
・払い込みを証する書面
・印鑑届書
・取締役会議事録(必要な場合)
税務署への届出
法務局の他に、税務署へも法人(株式会社)設立を届け出る必要があります。もちろん、事業開始後の納税のためです。少なくとも次の書類を準備し、税務署に届け出ます。
・法人設立届
・青色申告の承認申請書
・給与支払事務所等の開設届出書
・源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書
このほか、事業によっては「棚卸資産の評価方法の届出書」や「減価償却資産の償却方法の届出書」が必要となる場合もあります。
社会保険の手続き
法人(株式会社)を設立したら、社会保険の手続きも必要です。
中でも年金の手続きは必ず行う必要があり、次の書類を準備して年金事務所に提出します。
健康保険・厚生年金保険新規適用届
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
健康保険被扶養者(異動)届(家族を被扶養者にする場合)
加えて、従業員がいるのであれば、労災保険と雇用保険の手続きが必須です。労災保険の手続きは労働基準監督署で、雇用保険の手続きはハローワークで行います。
自治体への届出
自治体(市町村)に対しても、法人(株式会社)の設立を届出なければなりません。
一般的には「法人設立届出書」を提出しますが、書類名や手続きの流れは自治体により異なります。詳しくは自治体への確認が必要です。
法人設立の起業にかかる費用
法人(株式会社)設立での起業における、各手続ごとの費用と合計額は、次の通りです。
資本金の規模にもよりますが、少なくとも20万2,000円が費用としてかかります。
手続き | 項目 | 費用 | 備考 |
---|---|---|---|
定款の作成・認証 | 収入印紙代 | 4万円 | 電子定款の場合は0円 |
ー | 証人への手数料 | 5万円 | ー |
法務局での登記 | 登録免許税 | 最低15万円~ | 資本金額の0.7%が15万円以上(資本金額約2,140万円相当)の場合、資本金額の0.7% |
法務局での登記 | 定款の謄本手数料 | 約2,000円~ | 1ページ250円 |
税務署への届出 | ー | ー | ー |
社会保険の手続き | ー | ー | ー |
自治体への届出 | ー | ー | ー |
合計 | ー | 20万2,000円~ | ー |
法人設立の手続きは、一人で行うと多大な手間を要します。そこで、司法書士に実務を依頼することが多いです。この場合、司法書士への報酬として約7万円から10万円ほどが必要です。
合同会社による起業方法もあり
最も一般的な法人形態は株式会社ですが、その設立には、かなりの手続きと費用が必要です。
また、特に一人で起業する場合に、株式会社を設立するとなると、最初からあまり気にかける必要のないことまで、手続きをしなければならないのも事実です。
それでも法人を設立したい場合、「合同会社」にするという手段もあります。株式会社の設立はハードルが高くても、合同会社なら手間も費用も抑えつつ、個人事業主の延長のような形で起業することが可能です。
※3種類の会社の設立方法を知りたい方は下記をクリック
株式会社と合同会社の違い
合同会社はイメージとして、株式会社を小さくしたようなものです。
株式会社と大きく異なるのは、合同会社は出資者でなければ経営ができない点です。株式会社の場合は、出資者と経営者が別でも大丈夫ですが、合同会社ではこれが不可能です。
その他に、合同会社と株式会社の見かけ上を比較すると、次のとおりです。
ー | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
設立に必要な人数 | 1人 | 1人 |
出資者の責任範囲 | 有限 | 有限 |
出資者の名称 | 株主 | 社員 |
最高意思決定機関 | 株主総会 | 総社員の同意 |
議決権 | 出資割合に応じて | 任意 |
配当 | 出資割合に応じて | 任意 |
決算公告義務 | あり | なし |
合同会社での起業のメリット
合同会社も法人なので、設立にあたっては定款を作成し、登記をする必要があります。しかし、その手続きは株式会社の設立に比べて簡単で、かつ費用もかなり抑えられます。
まず、合同会社の定款の作成には、法務局または公証役場の認証が必要ありません。したがって、株式会社の設立には必要な証人への手数料5万円が不要になります。
一方で、書面による定款を作成すると収入印紙代4万円が必要ですが、電子定款も可能です。電子定款にすると収入印紙代も必要なくなるので、合同会社の定款作成にかかる費用がゼロで済みます。
さらに、株式会社では最低15万円だった登録免許税が、合同会社では最低6万円(資本金額の0.7%が6万円以上の場合、資本金額の0.7%)になります。
合同会社は、一人でも設立しやすい法人です。個人事業主としての事業も可能だけれども、法人にすることで外部からの信頼があがり受注しやすくなるため、わざわざ合同会社を設立する人もいます。
起業は計画をしっかりと立て、ベストな方法で
個人事業主での起業か、法人を設立しての起業のどちらがベストかは、一概には言えません。
もちろん、手続きは簡単な方が、また費用は少なくて済む方がよいです。この点では個人事業主の方がメリットは大きいですが、一方で規模の大きい事業を受注するしたい時などは、そもそも法人としての信用度がなければできない場合もあります。
起業して行う事業に照らして、個人と法人のどちらでスタートするべきかを、決める必要があります。似ている事業で起業した先例があるなら、その人に話を聞いて参考にし、判断してもよいでしょう(ただし参考にするのは、地域の異なるエリアでの先例にした方がよいことがあります)。
また、合同会社を設立する方法についても解説しました。合同会社もかなりメリットが大きいので、起業にあたっては検討してみるとよいでしょう。